見出し画像

令和版教育維新に学ぶ住宅・不動産営業DX〜Vol.2〜

▼令和版教育維新に学ぶ住宅・不動産営業DX~Vol.1~はこちら

学ぶって楽しい!学ぶことへの効力感を作り出すことが大事

ー先日のPwCさんとのインタビューの記事の中で最先端技術を使いこなせる自信がある人の割合が日本は最下位というデータを拝見したのですが、なぜそのような結果になったと思われますか。

テクノロジーの変化に順応できる自信は最下位だけど、テクノロジーに関わる新しいスキルを学んでいる割合も最下位というデータですね。要は、変化に順応できていないという危機感はあるのに、学ぼうとしていないわけで、衝撃的なデータでした。

図1:質問「職場に導入される新たなテクノロジーの活用に順応できる自信がどの程度ありますか?」に対して「とても自信がある」と回答した割合
(引用元):https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/hopes-and-fears-jp2021.html


図2:質問「私はテクノロジーの変化についていけるよう絶えず新しいスキルを学んでいる」に対して、「強く同意」と回答した割合
(引用元):https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/hopes-and-fears-jp2021.html

私の仮説としては、「高校または大学段階までの教育経験の中で学習性無力感のようなものが染み付いているのかもしれない」と思っています。学習性無力感というのは、一生懸命勉強しても成績が上がらないし、意味も感じられない。だから学ぶことは楽しくないものなんだと諦めているような状態です。
つまり、学校生活の中での成功体験というか、頑張ったらできるという経験ができていないんですよね。
 
例えばよく言われるのが、体育の授業で、いくら時間をかけても苦手な競技がうまくできるようになった経験がないということなのですが、現在は、体育の授業にICTなどの技術を取り入れることによって変化が起こっています。
 
逆上がりの授業を例に挙げると、1人1人映像を撮影し、自分のタブレットで見直しながら生徒同士で対話をすると、「できている子はこういう風に体が動いてるけど、僕の場合はこうなっている」というように、対話の中で自分の課題を見つけ、その課題に対してどのようにアプローチしていくか、自分で目標を持って練習をするようになります。
 
そうすると、元々できなかったことが体育の授業を通して、できるようになったというポジティブな体験ができます。
そういう体験を繰り返していくことで、「学習というプロセスを経ると、自分はもっとやりたいことができるようになる」という自信を持てるようになります。

ーなるほど。確かに、自分を客観的に見て、どこが悪いのかを発見して工夫するというプロセスによって成功体験を積むことができると、「もっとやりたい!」という意欲が湧いてきたりしますよね。

そうなんです。
 
しかし、現状は何のためにやっているのか分からないまま授業を受けていますし、できない時にも適切なサポートがないまま進むので、できる子とできない子の差が大きく離れてしまう問題が起きます。
この問題は、教育が個別最適になっていないことが原因で生じていると思っています。
 
例えば、英語が得意ではない子にも色んなパターンがあります。
英語のテストでは、単語・リスニング・ライティング・リーディングと様々な出題形式がありますが、「どの分野で点数が出てないのか?」という観点だけでも細分化できますし、「苦手分野では何が原因で苦手になっているのか?」など、細かく探索していくと、それぞれに課題が見えてきます。さらに、宿題もそれぞれの課題に合わせてパーソナライズ化されていくべきだと思ってます。
 
先生1人が生徒40〜50人に一斉指導を行い、宿題も全員に平等に課す現状の教育方法だと、そのやり方が本当に合っている生徒は、恐らくクラスの2〜3割ぐらいなのではないでしょうか。
残りの7〜8割の子たちは、理解できないまま置き去りになっていたり、逆にもっと早く進みたいのに退屈していたり。そのような個々の状況差に対して、適切なフォローがないまま、授業はどんどん進むし、宿題も一律に課されていく。
 
その繰り返しの中で、一生懸命頑張ったとしてもできないという体験を積んでいってしまうと、学習すること自体が嫌になってしまうんじゃないかと思うのです。
そうならないように、僕らEdTech企業がやりたいことは、教育にもっとテクノロジーの力を入れることで、それぞれの子たちにカスタマイズした個別最適な学びを提供できるようにすることです。
例えばプログラミングであれば、各個人の理解度に合わせた課題が提示されたり、それぞれのペースでプログラミングを進めていったり、さらに各個人が作りたいと思うテーマを持ってプログラミングをできるような学習体験を提供できれば、プログラミングを初めて学ぶ子たちにも「できなかったことができるようになって、楽しい!」と思ってもらえると思うんです。
 
そういった学ぶことへの効力感を若いうちに感じられなかったことが、冒頭の調査にあった、日本人が新しいことを学ぼうとしない一因になっているのではないかというのが私の仮説です。

ービジネス現場では、ここ数年1on1の話が注目されていますが、それと近いと感じました。企業でも通り一辺倒にこれをやっておけばいいという指導やそれができない人は仕事ができないというようなレッテル貼りがあったりしますが、そうではなくて、一人ひとりと向き合って「なぜできないのだろう?」、「どこに詰まってるんだろう?、「どこが強みなんだろう?」みたいなことをしっかり見極めていくことが、実際のビジネス現場でも教育現場でも求められているということなんですね。

新しい学びの一番の近道は働き方改革。専門性の再定義が必要


価値観の変遷が大きな影響を与えているということもあると思います。
企業もそうですけど、Z世代と呼ばれている世代は1人ひとりの個性を大事にし、その個性が尊重される社会を所望しているところがあります。
今のマネジメントスタイルの変化は、文化的にもそういう風に変わりつつあるという流れと、過去の教育問題の負を解決していこうという二つの流れから来てると思っています。
 
個別最適で教育を行うことに対して懐疑的な意見もありますが、今までのやり方では上手くいっていないという現実があるのであれば、新しいやり方を考え、そこに対してチャレンジしていく必要があると私は思っています。
 
それは、これまでのやり方を全否定するということではありません。
学校で言えば、これまで行われてきた対面での一斉授業を全否定するわけではなくて、
一斉授業も一つの手段であると捉え、個人のことをよく見た上で、各自に合ったアプローチをもっと選択できるようになるということだと思うんですよね。一斉授業で導入を行い、AIドリルで各自のペースで学んでもらいつつ、先生がフォローが必要な子たちに個別に声掛けを行っていく。いろんな手法をミックスすることで、個別最適な学びは実現できると考えています。
 
なので、企業のマネジメントに関しても同じで、従来のやり方を全否定するのではなく、従来のやり方とパーソナライズ化したやり方のベストミックスを探していくのがいいと思います。

ー実際に、学校の先生が個別最適で教育をしようとなったら、今までよりも1人1人に向き合う時間が必要になると思うのですが、そこは時間的に可能なのでしょうか。

個別最適な教育を取り入れていく上での問題はそこにあると思っています。
なので、新しい学びを取り入れていくための一番の近道は働き方改革を進めることだと思っています。そして、それはテクノロジーを活用することとセットです。
 
個別最適な学びを実現するためには、1人1人と向き合い、それぞれの特性や興味関心を把握し、個別の対応をすることになるため、これまでよりも生徒に向き合う時間が必要になります。
ではどうやっていくかというと、テクノロジーを導入するしかないと思っています。別の方策として人(先生やメンター)を増やすという手もありますが、全業界で人手不足が深刻化する中、教育業界だけ人を増やすことで問題を解決するという考えは現実的ではありません。
テクノロジーに任せられることはテクノロジーに任せる。先生でないとできないことは何か、やることやらないことを決める必要があります。

ーやることやらないことをきちんと決めてあげるって凄い大事ですね。そのような状況の中で、先生がやるべきことも変わってきているのでしょうか。

教育現場でいうと、AIドリルなどのテクノロジー(EdTech)を導入することで本来先生を取り巻く前提条件が変わっています。先生とEdTechとのあわせ技でベストな教育を展開できるようになったからです。
そのため、先生の専門性の定義が変わります。
 
これは学校の先生にしても、不動産の営業にしても一緒で、今この時代のテクノロジーの発展を考慮した時に、どんな職業であれ専門性の再定義をしていかなきゃいけないと思うんです。
 
例えば、単に一方通行で講義をするということに関してはYouTubeを見た方が分かり易かったりするじゃないですか。多くの先生は講義の点では、Youtubeのトップコンテンツやオンラインのトップティーチャーには勝てないっていう感じになっていくと思います。

ーそうなると、教師の存在意義自体が問われてしまうような形になったり、いままでのやり方の教師の不要論が出てきたりしないですか?不動産の営業を見ていても、お客様は自分たちで情報収集はできますし、自分たちで意志決定できるみたいなこともあるので、営業不要論も出てきていたりするのですが、その辺りはどうなのでしょうか?

教師がいらなくなるのではなくて、
いまの時代に求められる専門性の定義が変わったという話だと思います。
 
私は、教師の新しい専門性は3つあると思っています。
 
まず1つ目は「個別最適な学習のラーニングデザイナー」としての役割です。
 
つまり50分という授業時間の中のどこで何をするのか、様々な手法や体験設計を検討し、カリキュラムをデザインしていき、個別最適な学びを実現する上でどんな手法を組み合わせることがベストかを考えていくことが求められます。どんなEdTechを活用するかの見極めもここに含まれます。
 
2つ目は「探究を引き出すファシリテーター」としての役割です。
 
知識の習得に関してはAIドリルやYoutubeなどでも実現しやすいんですけど、探究的な学びというのは、より1人ひとりに寄り添わないといけない部分だと思っています。
一人ひとりに対して、心がドライブする問いを持てるような学習支援=ファシリテートが必要になります。
また、探究の場合、単に知識を覚える学習と違ってゴールがありません。
 
例えば好きなものについて調べてきたケースを例に挙げると、そこに対して共感をして探究終了ではなく、新たな視点や情報収集のポイントを伝えることで、本人が興味を持ち、今度は違う課題を持って調べるというところまで誘導します。
その上で、生徒が新しい発見を持ってきたら、次のテーマや視点を与えてみるなど、
探究が進んだ先で新しい課題を設定していく。そのファシリテーションや、足場かけが必要になってきます。
 
この足場かけが非常に大事で、本人だけだと気付けない問いに対して、「こうしてみたら?」という風に足場かけをすることで、子どもたちの視野や学びを広げていくことがすごく大事になります。

最後は、「実践的研究者として常に研究し続ける」ことです。
 
例えば2022年4月からスタートした高校の「情報Ⅰ」という教科では、高校一年生がPythonでプログラミングを学ぶような学習内容が入っています。
日本中の高校生がPythonを学ぶと一体何が起こるか?
この答えを知っている人は世の中にまだいません。
なぜならこの新しい教育内容に挑戦しているのは、日本の教育史上初めてのことだからです。
 
でもこういった、新しい教育に挑戦することで、子どもたちのこれまでにない成長が起こり、「もっとこうしたい」という新しい課題が見つかっていきます。
 
新しい挑戦をしてみて、そこをしっかりPDCAを回しつつ知見を貯めていったり、その情報を互いにシェアして対話してみたりというような研究者的な活動することが、自分自身の専門性を高めていくと同時に、こどもたちの学びを良くしていくんです。
 
また、そういった研究知見が積み上がっていかないと教育業界は本当に発展していかないと思っています。教育に限らず、いつまでもアップデートがなく、同じことを繰り返すような業界に未来はありません。
 
私は教育の仕事は「文明をアップデートしていく仕事」だと思っています。
時代の変化に合わせて、常に新しい教育を作り上げていく。その営みが、これまでの文明をアップデートさせてきた原動力だと思っています。
最先端の実践が現場にあります。現場の視点から教育についての研究知見が蓄積され、新しい教育方法が世の中に広がることによって、社会全体の教育水準が上がってきます。
そうやって積み上げてきた教育の上に今の私達もいると思うんですけど、それをご先祖さんだけではなくて、僕らがさらに積み上げていかなきゃいけないと思っています。


ーなるほど、これは住宅・不動産業界でも全く一緒ですね。住宅・不動産購入検討者が、自分1人でも情報収集ができる状況の中で、優秀な営業は、お客様が欲しい物件をそのまま提案するのではなくて、探し方自体をレクチャーしながら、お客様自身の考え方を導いていくことができているんです。なので、どんな要望があるのか、それはなぜなのか?に対してきちんと寄り添えることが重要になっています。そのためには、やっぱりマネージャーや経営者自身が変わっていくとか、どんどん新しい価値観を世に出していくとかってことをしていかない限り、それこそアンラーニング(=学習棄却)を進めていかない限り、発展はないって話ですよね

完全にその通りだと思います。
私は企業が目標設定面談を四半期ごとに行う意味ってまさにそれだと思っています。
目標設定面談で数値の目標達成したかどうかを見るだけではなく、個人がここまでできたと確認し、これまでの実績や課題を振り返り、さらに今後ストレッチするところはどこなのか考える機会をつくることは、やはりとても重要なことです。
Will・Can・Mustの輪でいうところの、Canの輪をどうやって広げていきたいかとか、改めて自分のWillをどうしていきたいか考えるとか、じゃあWillとCanの重なりの部分を今回新しい成長目標に設定するとか色々考える機会になるわけじゃないですか。
その振り返りや新たな目標設定をすることの繰り返しこそが経験学習のサイクルです。、そしてそれは、本人の職業的探究が深まるサイクルでもあります。中長期的に本人の専門性を高めていくと同時に、ひいては業界全体のアップデートにつながるとも思っています。

今回頂いた大きな示唆は、時代の変化に応じて、教師の専門性が変わっているということです。
教師と生徒で情報格差が明確にあった時代には、教師が「教えてあげる」という立場だったと思います。しかし、インターネットが普及し、情報格差がなくなってきた今、教師の専門性が変わってきているわけですね。一人ひとりの生徒にこれまで以上に向き合い、1人ひとりにとっての最適解に導いてあげることができるようになる必要があるということでしたね。
住宅・不動産業界における営業の役割も、時代の変化に応じて同じように変わってきていると思います。お客様自身でたくさんの情報にアクセス可能な時代において、営業とお客様の間に情報格差はなく、むしろお客様の方が情報をたくさん持っているというケースが多くなっていると感じています。
しかし、ほとんどの方が初めての経験という住宅購入において、情報におぼれて自分にとって最適な住まいが何なのかが分からなくなっているお客様が多いことも事実です。
そのような状況下において、住宅購入検討者1人ひとりにとって最適な住まいを提案し、自社を選んでいただくために必要な、営業としての「新たな専門性」を定義していかなければならないと実感しました。