令和版教育維新に学ぶ住宅・不動産営業DX〜Vol.1〜
homie株式会社は、不動産営業DXの実現支援を通じて、”Sales to Consulting〜不動産営業に、もっと輝きを〜"の実現を目指しています。今回、住宅・不動産業界以外で活躍する専門家の方にお話をお伺いする”エキスパートインタビュー”という企画を立ち上げました!
第一弾として、ソーシャルIPOを目指すEdTech企業として注目されているライフイズテック株式会社の讃井取締役に、令和版教育維新によって学校教育現場で起こっている改革と、その背景について語っていただきました。1時間のインタビューが非常に濃かったため、4回に分けてお送りいたします
営業育成を課題にあげる住宅・不動産事業者様も非常に多いと思いますが、今回のインタビューは、なぜ変わらなければならないのか?営業育成に大事な”学習”に必要なポイントとは?についてのヒントが盛りだくさんです!ぜひご覧ください!
ライフイズテック株式会社取締役最高教育戦略責任者 讃井康智氏の紹介1983年、福岡市生まれ。久留米大学附設中高卒。東京大学教育学部卒業後、コンサルティング企業を経て独立。東京大学大学院教育学研究科に進学し、学習科学の第一人者である故・三宅なほみ氏に師事。各地の教育委員会・小学校・保育園などで創造的で協調的な21世紀型の学びを実現するサポートを行う。ライフイズテックの立ち上げ時に同社に参画し、自治体・学校・企業向け事業担当役員を務める。今年度より、経済産業省 産業構造審議会「教育イノベーション小委員会」の委員に就任。
世の中が変わっているから、教育も変わらなければならない。
ー2020年から段階的に小中高と指導要領が変わってきた中で、「問題解決能力の向上」が中心に置かれているかと思います。問題解決能力の向上は、これまでもずっと課題として言われてきたことだと思いますが、文科省が今回の改訂で大きくそこに焦点を当てている背景としてどういったことがあるのでしょうか?
文科省に限らず、世界的にOECDの方針は教育政策に大きな影響を与えています。
教育行政の関係者が問題解決能力を引き上げるという政策を描いている背景には、VUCAと呼ばれる変化の激しい時代であること、Society5.0で言われるようにITを使って課題解決することが当たり前の時代であること、あとは環境問題を含め、様々な社会課題が多くある時代ということが考えられています。
そういった社会では、ある事象についての知識を持っているだけではなく、問題解決・課題解決までできる人を育てる必要性が前提にあります。そうなった時に、ただ知識を覚えているだけだと、現在新しく起こっている変化や,
社会課題に対応することができないので、自分自身で問いを立て、学び、答えの無い答えを探究し続けていくことができる人物が求められているということが、日本の教育改革にも大きく影響していると思います。
ーOECDの方針や教育行政は、社会で必要とされている能力に対して、子どもたちの教育方針を逆算して設計しているのでしょうか?
本来はそうです。例えばOECDであればOECD Education 2030という大きな指針が出ているのですが、その書き出しは「グローバル化の進展や技術の進歩の加速によって,我々は,社会,経済,環境など様々な分野において前例のない変化に直面している」と始まっていて、こういう世の中になるからこういう能力が必要になるという文章構成になっています。
ところが日本だと学習指導要領がカリキュラムに翻訳され、それが現場で実践される時には「この教科でこの内容を教えてください、単元時間はこれだけです、教科書はこれを使ってください」という風になります。
そうなると元々示されていた社会課題や背景、目的が抜け落ち、この教科ではこの知識を教えなきゃいけないということだけに囚われてしまいがちです。そうすると、国と学校現場との間で教育に対する認識差が生まれてしまうんですよね。
ーこれまでも、知識はインプットしたらアウトプットして上手く使っていこうという話はあったと思いますが、なぜ国は今までそこに向き合ってこなかったのでしょうか。
そうですよね。色々な問題があるとは思うんですけど、個人的には、ちゃんと知識を活用していこうとか、領域を横断的に繋げていこうといった方針自体に大きな転換があったのは、2000年頃で、そこから結構時間が経っていると感じています。2000年の学習指導要領の改定で「生きる力」が大事だということが言われ始めて、「総合的な学習の時間」が新しい教科として出来て、学んだことを領域横断的に繋げながら自分でテーマ設定して学んでいこうという動きが起こりました。
ただし、出口である受験はその当時と何か変わったか?というと、ずっと一問一答の知識問題が中心で、あまり探究的でも総合的にもならなかったんです。その結果、総合的な学習の時間が良い形で定着したかというと長らく疑問符がついてきました。
この20年で知識を覚えるだけでなく、知識を活用するというところに教育が向かっていかなかった要因の1つは、教育の出口が変わってないからだと考えています。つまり、出口である受験が変わらなければ、結局教育の中身はそこに従属してしまうわけです。
あともう一つは、新しいことをやろうとなった時に、先生たちのスキルアップや、先生たちが新しいカリキュラムを作るための伴走も必要だったと考えています。そこが不十分だったことも教育がなかなか変わらない要因としてあげられます。これを、政策論では「政策実施過程」の問題と言います。
どういう教育を行うべきか政策内容を決定するまでを「政策決定過程」と言いますが、本来大事なのはその後、政策を決定しそれを実行していく「政策実施過程」にもっとスポットライトが当たる必要があります。
例えば、総合的な学習の時間という政策が決まるまでは関係者もメディアも活発に議論するのに、いざ政策が決定し、どうしたらうまく実現できるかという段階になると、急に議論や支援がなくなり、学校現場に丸投げになってしまいます。
現場は急に新しいことを言われて、方法も分からない、時間もない。そして、受験にも出ないならそもそもやる必要がないのでは?と負のスパイラルを辿ってしまったわけです。結果的に、文科省がいかに良い教育政策を作っても、絵に描いた餅に終わったのです。
ーなるほど、国は変革の方針は出していたものの、実際に教育現場へ落とし込むとなった時の動きが弱かったのですね。
そうなんです。ところが2000年の改定から20年経って、まず1つ、世の中の価値観が本当に大きく変わりました。
現代の社会人であればみんな、「やっぱり知識を覚えているだけではいけない」という価値観が当たり前になっていると思います。社会に出ると、「変化の早い時代に絶対解なんて無いから、最適解を自分で探っていかなきゃいけない」という考えが新入社員でも当たり前になっています。
今までの知識詰め込み型の教育では、それが得意な子はいいけど、そうじゃない子たちが学校に絶望していたり、民間企業の関係者から「そんな教育では社会で活躍できる人材が全然育たない」といった批判が入ることもありました。
ただ最近は、学校教育の関係者の中でも「このままの教育ではいけない」と危機感を抱く人達が国・都道府県・市町村・学校とそれぞれの立場で増えてきており、今まさに教育が変わろうとしている風を感じています。
我々ライフイズテックがずっと取り組んできていることでお話をすると、中学・高校の授業ではプログラミングを用いて問題解決をするという内容が必修で入ってきました。
特に高校では、情報の授業内容がアップデートされ、統計(データサイエンス)のスキルを使った問題分析やPythonを用いたプログラミングで問題解決するような内容が入ってきます。ようやく2000年頃に言っていたような、社会の「問題解決能力」や「生きる力」を身につけていこうという考えが社会の支持を得て、実行されていく段階に来たなと感じています。
世の中が変わっていく中で現場も少しずつ変わり始めている
ーなるほど。とはいえ国から求められることは変わっても、先生たちの人材は変わっていないのでは?と思うのですが、先生たちが適応していくために、今どういう支援がされているのでしょうか?
まず前提として、「生きる力」の育成が示された2000年の学習指導要領の改定から今日までに20年以上の時間があったので先生たちの価値観も変わっているということがあります。上の年代が抜け、当時新卒だった先生たちが今40代になり中心人物として活躍されています。要は、新しい教育観やICTにも理解のある層が学校の中核を担い始めているんですよね。
国立教育政策研究所の最近の研究で、今ICTの利活用について実は20代よりも30〜40代が1番使っているというデータが示されました。その背景には十分な授業力があって、新しいことにチャレンジできるバイタリティに加え、経験を積むことで少し余裕を持てるようになってきたことがあると予測されます。
20代だとまだ余裕がなくてできなかったりすることもあると思いますが、30〜40代の先生がICTをよく使ってるという調査結果が出てきたということは、先生方も世代が変わり、考えが変わり、教育現場の風景も変わりつつあるのだと思っています。
ただ一方で難しいのは、「世の中が変化するから、新しいことをやらなきゃいけない!」という社会からの要請は、2010年代までと比べると2020年代はますます速くなっています。だからこそ、学校現場でも常に新しい情報をアップデートしながら変わっていく必要性がこれまで以上に高まっていると思います。
ーなるほど、ICTに馴染みのある世代が学校の中核を担い始めているのですね
そうなんです。日本の学校は、2019年末にGIGAスクール構想が発表され、小・中学校で一人一台パソコンが配られたのですが、それまでは、OECD加盟国の中で、学校でのICT利活用率が1番低い状況でした。
ICTを活用していなくても、ある程度数学や国語の能力は身に付けられているし、それで十分という感じだったので、変わらなくてもやってこれたのだと思います。
ですが、これは先程お話した内容とも重なりますが、これからの時代は新しいことに対応し続けることが、頻発する時代になります。そして、テクノロジーを使ったり、課題を解決したり、何かを探究する学びが重視されます。そのような学びを学校でも経験していかないと、日本の子どもたちはますます世界に取り残されていきます。
そうならないためにも、先生たちに今求められているのは、自分自身が新しいことを学び、変化していくこと。そのプロセスを個人としても、組織としてもどう作っていくかということが大きな論点です。
学校に限らずどこの組織でも「今までもそれ(変化し続けないといけないということ)は大切だったよね?」という見方もあると思います。しかし、2020年代は今までとは変化のスピードや、身につけないといけないスキルの量が違ってきています。個人としても、組織としても「学び続ける」ことがより大事になるということです。そのためには、働き方改革を初めとし、組織的に先生たちの学びを支援できる仕組み作りが必要です。
プログラミングのように、自分ですぐに全てを理解することが難しい内容については、企業が使っているようなSaaSサービスと同じように、EdTechの教材やツールを使い補完していくことも大事です。外部の知見を活用する発想に立たないと、学校が今のリソースだけで社会の変化に対応していくことは困難を極めます。
ー危機感を感じている世代が教育現場の中核にいるからこそ、変化しやすい状況になってきているということでしょうか。
そうだと思います。2000年代とか1990年代に比べると、「やっぱりこのままじゃ日本やばいよね」っていう認識がどんどん高まってきて急に変わってきている印象を受けます。
実際、つい最近までは、この20〜30年で学校での学びの風景が変わっているかというと、ほとんど変わっていませんでした。ICTの利活用に関して言えば、去年ぐらいからパソコンが一人一台配られて急に変わり始めていますが、それまではあまり学校の授業でICTが活用される風景はありませんでした。
そのため、授業参観を見に行くと「ああ自分の頃と一緒で懐かしいなあ」って感じる保護者の方が多かったと思います。でもそれっておかしな話ですよね。企業で20〜30年前自分の働いていた会社に行って、「あの頃と一緒で、みんなファックスを使っているなあ」となったら、心配になりますよね(笑)
でもそれが平然と学校で起こっていたということが問題でした。ようやく日本の教育現場も大きく変わりつつあるのです。
ーとても分かりやすいですね。確かに、20〜30年前と会社の風景が変わってなかったらやばいですね。ビジネス視点に置き換えると、企業としてビジョンを掲げて、大方針を設定したとしても、それがマネジメント層に落ちずに実行に移らないというのと同じ構造ですね。そして、危機感のある現場から少しずつ変わり始めるということなんでしょうね。企業も、世の中が、市場が変わっているからこそ、戦い方を変えなければならないということですね。
日本の先生たちの能力は決して低くないと思っています。GIGAスクール構想で全国に配備されたパソコンを使った授業が、たった1,2年で全国に広がりつつあります。すごいことですよ。適切な支援があれば、先生たちは変化に適応しつつ、もともと持っている優れた能力をもっと発揮されることでしょう。
これは日本の企業にも言えることです。組織的に新しいことを学ぶ支援を行っていけば、社員の皆さんがもともと持っている能力が引き出され、社会の変化にもスピーディーに対応できるはずです。